日常の断片 1

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(アルバイトのMさんが私のB社退職記念に贈ってくれたイラスト)


困ったね

絶対迷惑をかけないからと私にサラ金(4社)にお金を借りさせた知人が音信不通になって4ヵ月。

武術の有段者だし、イタリアでは軍隊にいたこともある人だけど、10日で金利数割とかいう闇金融複数から金借りてたからなぁ。

殺されているんじゃないかと心配です。身寄りが全くいない人だから、だぁれも捜索願出さないだろうし。

殺されてもそうじゃなくても死は訪れるけど、まぁ、自分で納得できる死を迎えたいものです。

こちらは返済で大変ですが。


言わずもがな

著作権関連の社団法人のデータベースに関連する仕事を、この前辞めた会社でしていた。色んな人から寄せられる著作権関連の質問を分類整理しようというもの。可笑しい質問、マヌケな質問はたくさんあったが、単にマヌケというより、なんだろうね、コレと思う話もあった。以下のはそんなものの一つ。
大学で学位論文の審査に当たっている者だと質問者は自己紹介し、質問をした。修士課程や博士課程にいる学生に対して、一部の指導教官は「論文なんて、外国の論文を翻訳してそのまま提出すれば大丈夫」と指導しているのだが、これは著作権上いかがなものか、と質問してきた。

いかがなものかって、外国の論文丸写しであることが明々白々なら、著作権がどうとかいう話じゃなくて、修士・博士論文として不可だろう。盗用なんだから。

おそらく盗作論文だと知っていてもはねることのできない上下関係が、審査担当者とその盗用奨励教官の間にあるのだろう。そんな当たり前のことを、憂さばらしとして大学教授から質問される方もいい迷惑だと思う。


ひとり闇鍋

4ヶ月しかいなかった、その会社であるが、その晩は、そのうちの何人かが私の送別会を開いてくれたのであった。数日後には鍋パーティーをすることになっていて、その鍋パーティーの会場となる部屋の主である女性、まにゅと呼ばれる、この前30になったばかりの彼女は、なぜか毎年、誕生日前には男と別れ、今年も誕生日直前に別れ、誕生日当日はぐっすんと一人で過ごし、かかる事態にあって、女性においてはよくあることなのかもしれんが、長かった髪をまるでモンチッチのように短くした。「なんか、モンチッチを彷彿とさせるね」と私が言うと、「何を言うかぁ」と怒って見せた。が、やはりモンチッチというのは、そんなに遠くないと自分は思っている。で、その晩の送別会の席で、鍋に対する思い、これまでの思い出の一端を披歴した。昔、同棲していた彼氏の一人は、料理が上手で、鍋も作ってくれたらしい。毎日、手料理を作ってまにゅの帰りを待つ彼氏(無職)。うわぁ、ありがとうと思っていたが、彼が無職なのだから早く気がつけば良かったのかもしれんが、まにゅが部屋に置いておいた10万円は忽然と消えていたそうな。そんなこんなの話をし、鍋奉行を自任しているのだと主張し、話題はひとりで闇鍋だってしたことがあるという話へとなだれ込む。
「“ひとり闇鍋”って、ひとりなら何が入っているかわかるじゃん」
と私の左隣にいた、慶応大学卒とはほとんど誰からも思われず、しかもその晩の私の質問で卒論が「江戸時代の少年愛について」であることが判明したマッツィーが口をはさんだ。素朴だけど間の悪い所業の多い、マッツィーは、それゆえに多くの人間から、愛されていて、それは恐らく彼女の人徳なのであろうな。そんな誰からも愛される性格のマッツィーでさえ、やはり社長と付き合えないと私より先に辞めたのだった。
さて、そのマッツィーのあまりにストレートな突っ込みを受けて、まにゅは、いかに一人闇鍋を作るかを身振り手振り交え、表情を作り熱演したのである。
こてこての大阪出身で、しかも大学では演劇を専攻していたという、まにゅのそれは場になじませようと抑えていたものの、やはり素人のそれとは思えず、目をつむり、なんだか解らないものをアタシは鍋にしているのヨ、という女性を演じきった。
その様を見て、まにゅを称賛したくなった私はこうまにゅに告げた。
「いや、鍋奉行じゃなくて、もはや鍋将軍やね」

すると、今度は、まにゅは鍋部隊について演じ始めたのであった(以下略)。


何が彼女をそうさせたか

「切り株の年輪で広がってるほうが南ってのは、どうも違うらしい」
その日の夜に初めてそれを聞いたのであった。
「えっ、そうなんですか?」
と自分は、それまで会話の当事者ではなかったが、気になってすかさず反応した。
何しろそういうものだと自分はずっと思っていたからだ。
彼の答えによるとだ、ある小学生の女の子が夏休みの自由研究でそれを課題に取り上げ、一本の木を何箇所でも切って年輪の広がり具合を調べたという。
「小学生」の「女の子」が、というところを彼は強調した。その結果を取り上げた教育研究家も絶賛したらしい。見上げた科学する小学生である。
その小学女子児童の研究結果によると、枝が横に出ている付近の年輪は、枝に栄養が行く関係で、方角に関係なく詰まるという。言われてみれば至極もっともな話。また斜面に生えている木だと枝が出る出ないと関係なく、斜面に対しての位置関係で年輪が詰まるとも説明された。これも聞けば聞いたで、至極もっともな話。
自分の知識が改定されたことよりも、私は、その女子児童が何をきっかけにして、その研究をしたのかが気になった。なぜなら、非力である女子児童が、一心不乱に年輪がはっきりと判るほどの太さの木を何箇所も切っているという図が、なんとも尋常ならない気がしたからだ。そのことについての情報は彼にはなかった。
想像をたくましくして私は、一つの憶測をしてみた。普段、自分はラジオというものをほとんど聞かないのだが、たまたま入った蕎麦屋で、この夏、久しぶりに「子供電話相談室」を聞いたのだ。
妙に具体的な子供の質問は、そんなこと研究した人は恐らくいないだろうと、蕎麦を食べながら聞いている私が思っていると、回答者の「先生」も「○○く〜ん、いいことに気がついたねえ。そのことについて、研究した人は、私が知ってる限りいないんだ。○○くんが調べてみたらどうだろ」などと宣っていた。そのラジオでのいい加減な、とはいえ、ある面正直でもあり、相手によっては科学する心を喚起する回答と、この小学女子児童が、私の頭の中でリンクした。
彼女もそうした質問をした一人だったのかもしれん、と。が、これは憶測だ。
非力である女子児童が、一心不乱に年輪がはっきりと判るほどの太さの木を何箇所も切っているという図は、やはり、なんとも尋常ではないだろう。何が彼女をそうさせたか――。


「すごくない?」

昼飯を食べに食堂に入ると、後から隣のテーブルにいかにも渋谷にいるギャルという感じの二人が着席。テーブルに化粧用具を広げて化粧直しをし、マシンガントークを炸裂。
化粧品の話ばかりしている。どこそこのは、何という雑誌のコスメランキングで下位だったとか、何とかいう化粧品はTVキャスターが使うぐらい崩れないとか、そんな話。
いい加減、化粧品の話をし尽くしたかと思ったら、二人のうちの一人が言い放った。
「ってゆーかぁ、私、化粧品、全部、ゴミ箱から拾ったやつなんだ。すごくない?」

確かにすごいかもしれん。
けど、何か狂っていると思う。


異言

●その一
朝、学校に向かうところであろう女子中学生二人組の一人の言ったこと。
「アタシ、豚がどんなふうに働いているか、見たことないの」
一体何の話なのか、「?」マークが頭に渦巻いた。
が、もしかしたら、これは何かのゲームの話かもしれない。
その点、次のは、自分で説明しているので、間違いないだろ。


●その二
母親と思しき女性の後に付いて自転車に乗ってやってきた女の子は
立ち漕ぎで角を曲がると
「おいしいー!」
と叫んだ。
「あ、間違えた。最近『疲れた』と言おうと思うと何故か『おいしい』って言っちゃうのよね」
 と自己レス。
それは神経の配列が間違ってんじゃないの?


見たくないよ

レイアウトの失敗と言うべきだろう。
本来、別の文脈の文字が、くっついて配列されているために、続けて読めてしまう。
「週刊ポスト」の電車の中吊り広告である。
「元気だせ!世の男たち 瀬戸内寂聴・特別説法」「未公開ヌード」
見たくない!!!!!
ちなみに、本来、誰の「未公開ヌード」かというと、武田久美子。これも見たくない……。


おのぼり親子

その日の新宿駅は凄かった。山手線に乗りかえるために通路に降りると通路が人で埋って、全然動かない。
微速前進してホームにやっと上がっても、ホームも人で埋っている。
人で完全飽和している駅。
人身事故を起こすまいと、駅員は黄色い声で絶叫している。
電車が着いても、人が降りる場所がほとんどないという状態。
そんな中、東京に珍しく来たらしい母子がいた。
通常の山手線でも、すし詰め状態だけど、それに馴れているOLでさえ悶絶の声を上げるようなすし詰め状態に、
1年生ぐらいと思しき少年は押し込まれる。
「痛いよぉ。痛いよぉ」
「騒ぐんじゃないの!」と母親は少年の頭を痛打。
揺られて隣の人にもたれかかると、
「人様にもたれるんじゃないの!」とまたパシリ!
「すみません、殴っていいですよ」とそのもたれかかられた人に頭を下げる母親。
「次、渋谷ですか? 次?」
と母親はあたりに質問しまくる。
どこで、いっぱい人が降りるか知らないからしょうがないんだけど、渋谷駅に着く手前で
「降りまーす! 次、降りまーす!」と叫ぶ。
「……大丈夫ですよ」とやかましそうに通勤者の一人が言った。



人間凶器かく語りき

駅のホームにその女がふらっとやってきたときに、すぐに何かやばげな気がして、私はそそと距離をとった。
全体の服装の印象としてはヴィジュアル系バンドの追っかけでもしてそうな黒服系の印象だが、明らかに違う。
まず化粧っ気がまったくない。髪もはねてる。
服もよれよれと、およそナルシスティックに耽美主義している感じとはほど遠い。
そして何より目が据わっているのだった。
電車に乗るときにドア一つ離れたのだが、数駅列車が走ったとき空いた席に座ったら、向こうが一つ隣に座った。
その女が、携帯を取り出して電話をかけている。
その声がよく通るのだ。常人よりはるかに通る。
ルミネのCMのルミ姉の声のキーを少し上げて、微妙にビブラートをかけたような声。

声だけ聞いていると女か男か判らないような、であるが、凄みのある声だった。
凄もうとして凄みがあるのではなく、自然と凄みがあるのである。
「今日、○○さんという人に会ったの。アタシ嬉しくて、はしゃいじゃったのね。そしたらカメたち(出歯亀という意味か?)がうるさいとか言い出してさ。アタシ、大人げなく応戦しちゃった。
え?『応戦』って? 『応戦』というのは――」
そこで、急に女は声を一旦消した。
「ふふふ……、アタシもまだ修行が足りないね。修行しなきゃ。ふふ」
詳しくは、家から電話するからと言って、その大柄女は渋谷駅の雑踏に消えていった。


記憶に残るツワモノ

一般には人気の高い街ですが、私は原宿が好きではありません。
一番の理由は、まともな本屋がないから。
本屋のない街は、それだけで、私にとってはツマラナイ。
そして、「アタシ/ボクって変わっているでしょ」というヘンチクリンな服装の輩がしゃらくさい。
キャラが立っているなら認めるが、その辺の有象無象は、前述の黒服女なら、口元をニヤリとする間に、全員血祭りにあげてくれるだろう。それぐらい格の差がある。
が、今まで見た変な人間の中で一番、記憶に残っている人間に出会ったのも、原宿だった。
一分の隙も無い、金髪碧眼の白人女性。
本職のモデルじゃないかというぐらい整った顔立ちにスタイル。
が、服装は透明なビニールをぐにゃぐにゃと集めただけのようなもの(どうやって出来ているのかよく解らない)。
手にしたひもの先にはスーツケースと空き缶やら、色んなガラクタがくっついてた。
それをガラガラと引きずりながら、表情一つ変えずに夕暮れの原宿を歩いていました。
ヤラレタという感じでしたね。あれは。


ロカビリー波止場


滅多に行かない公園に繰り出すと、親子連れで一杯だった。子供の日だもね。全国的に有名な公園だし。
ラジカセを鳴らしながら踊る、男ばかりのフィフティーズ。
せっかく衆人環視のもとで踊っているのに、バリバリではなくて、デレデレ。
もしかしたら、既に踊りつかれていたのかも知れない。
全員、ロケンロールしているというより、もぞもぞ動いているという感じ。
一人、ひときわ年期の入った感じのおっちゃんがいた。
なんで年期が入っていると思ったかというと、
リーゼントするための髪を一生懸命集めているという感じが遠目にも分かるから。
その人だけ、もぞもぞの中で一人オーバーアクションをしていたけれど、すべてオフ・ビートでした。

ラジカセのロカビリーは哀愁を漂わせておりましたです。
子供の日の出来事でありました。


にせスペイン坂

今の職場は渋谷にある。
その日、食事に出るとオヤジ臭さ全開のおとうさんと、その娘とおぼしき小学生ぐらいの女の子の二人が坂を登ってくるのとすれ違った。
おとうさん「さっきは何で迷ったんだろ」
「これがスペイン坂なの?」
おとうさん「そうだよ」
「どうしてスペイン坂なの? 何がスペインなの?」
おとうさん「スペインに似てるからじゃないかな。どうだろ」


そんなやりとりをしながら、3人はスペイン坂ではない坂道を上っていった……。


ちなみに、あれは西武が勝手に付けた名前で、スペイン通りと呼ばれる坂の登りきる手前に小間物屋がある。
そこのおばちゃんが「元から住んでいる人間に断りもなしに勝手に名前をつけるなんて」と憤慨しておりました。あの、おばちゃん、どうしてるだろう。


どうでもサクリファイス


その日は、職場の同僚と初めて飲みに行き、そのままその内の一人の家に泊めてもらった。飲んだ翌朝、駅へと向かう道すがら、商店街の商店をのぞいてまわる、私以外の二人。篠で作った小物に二人が集中しているとき、私は店先に申し訳程度に置かれた仏具コーナーを見ていた。その店で初めて見た垢抜けない線香のパッケージには「備長炭・活性炭使用 消臭作用バツグン」とか書いてある。線香のくせして自己犠牲的というか自己否定的というか、なんだろうね。


マヌケ放射能

用事があって、いつもと違う時間帯に通勤路を歩いていると、Tシャツに短パンのがに股の大男が、幼児の手を引いて向こうからやって来る。
輪島だった。
半径2mぐらいに間抜け感が放射されていた。


邪な思い

隣の部署で働くS田さんは、カントリー調の色調の服とか、フリルのついたスカートとか、刺繍のある白いブラウスなどを好んで着用する。ブランド名には疎い私であるが、ピンクハウス系といって恐らく間違いない服装だろう。(既婚者です)

今日、その隣の部署で雑談が盛り上がっていた。

「文通もテレクラも変わらないって」と男性社員。

「あ、そういえば俺の友人でテレクラで知り合って結婚した奴いるわ」と別の男性社員。

「結婚式でなんて紹介したのかね」

「電話で知りあいましたって言うのか」

「うーん、まぁ、結婚相手探しにいくところじゃないからね」

「そうなんですか」と純情なS田さん。

「邪な思いを抱いて行くところでしょ、テレクラと言えば」

「でも、邪な思いを抱いている自分を受け入れてくれるというのは、飾らない本当の自分を受け入れてくれたってことにはならないのかしら」と素朴に言うS田さん。

「お前、何を言ってるの?!」と二人の男性社員は声を荒げ、目を丸くしていた。


20世紀の最後に私がしてたこと

ネット上のあるコミュニティを退会しようと思って接続。入会の案内はあるが、退会の案内を見つけられない。ようやくQ&Aの中に退会のためのページへの行き方が書いてあるのを見つける。が、リンクはない。その行き方というのが、「メンバー専用」ないしは「登録変更」という項目をトップページで探せ、というものであったが、トップページのどこを探しても、見つけられない。見逃しているのかと文字検索をかけたが、どこにもない。結局、30分以上かかっても、退会のためのページには行き着けず、ぐるぐると入会案内周辺を回ってしまった。それで20世紀が終わり。


「顔」

歯医者に行ってきた。そこの歯医者は受付と治療室の間にドアがないので、受付でのやりとりも奥まで聞こえる。

先生の治療を受けていると、助手の女の子がやってくる。

「●時から予約の●●さんがもう来たんですけど」

「早く来た理由があるのか聞いてみなさい」と先生。

受付へ戻った、その女の子の声が聞こえる。

「あのぉ、どこか悪いんですかぁ?」

「顔。」

そのオヤジの返答に受付の女の子だけでなく、私の口に治療器具を突っ込んでいた助手の女の子まで「ぷははは」と吹き出した。

危ないだろ。


隠れたヒエラルキー

電車に乗っていたら、ある駅で顔グロの女の子が何人も乗ってきた。聞くともなし聞こえてくる話からすると、これから日焼けサロンに行くようだった。

「やっぱ美白よね」

「シロはいいね」

「黄色がいいな」

「私は黄色シロがいいな」(なんじゃそりゃ)

どうも、20歳を過ぎてまで顔グロを続けるつもりはないらしい。

「そういや、●●ちゃんは白いのは見たことないし、想像がつかない」

「地黒なんじゃないの」

「地黒、地黒 ははは」

顔グロ女の中でも地黒は地位が低いらしい。

元々白いのをわざわざ焼いているのがステイタスなのか。聞いていて可笑しかった。


謎の石焼き芋屋

駅から家に帰る途中、正面から石焼き芋のバンが来た。無農薬有機栽培の芋を使った石焼き芋だとのぼりに書いてあるので、面白いと思い、手を上げるとバンは私の前で一旦止まった。

私に気づいて止まったものの思って、私はバンに近づいたが、バンは来た道と直行する通りにバックして方向転換し、来た道へと走り始める。しかも、石焼き芋のアナウンスをしているのに、人が呼び止められないほどの速さで。

突き当たりを左に折れてバンは視界から消えた。

「私のことが見えなかったのだろうか。でも、変だ」

                 ・・

そう思いながら私はバンが来た通りを右折した。そっちが私の住んでるアパートがあるから。

二分ほど歩いてアパートの面している通りに出ると石焼き芋のバンが止まっている。

「さっきの石焼き芋屋かな、でも、さっき逆の方に曲がっていったし……」

私がバンに近づくと、バンは私の方に走り出した。またしても呼び止めれない速さで。

すれ違うときに確認したら、さっきのバンだった。

「アンタ、一体、何者なの?」


年明け初いやがらせ

千葉の成田の片田舎にある神社に初詣で。あるシリーズの本を読んでいる人には有名だけど、一般には無名な神社。そこで知っている人に会ったのは奇遇だったが、それはまあいい。ついでに帰りに成田山に行ってみた。関東での真言宗の大きな寺の一つですね。

で、歩いていたら、渋谷の交差点でよく聞いたような声が聞こえてきた。

目を疑ったがプラカードを持った人たちが歩いている。

「神は一人子であるイエス・キリストをこの地上に遣わせました」

「悔い改めなさい」などなど。

初詣で客でごった返す表参道だよ。ほとんどイヤガラセだと思ったけれど、立派だなと思ったのは参拝客が全員、完全無視していたこと。なんか、変な光景でした。


忘年会シーズン

渋谷のロフトで買い物をした帰りの山手線の中。何か液体をぶちまけるような音がしたと思ったら、小さな悲鳴。「スミマセン」と言いながら、若い男は小走りに代々木のプラットフォームに消えていった。振り返ってみると、頭からゲロをかけられた、品のいい婦人。四方からポケットティッシュを差し出す手が伸びた。私もポケットティッシュ出したけど、それより嘔吐まみれの上着をしまうのにいいだろうと、ロフトの袋を渡した。

逃げ去った男の同僚とおぼしき男がしきりに平謝りしていました。


ブラックナチス、再び

久しぶりにその街に降り立った。2年半前、この街を出て東京を去ったのだった。駅前も少し変わっている。

私が以前、住んでいた頃、駅前で毎日のように演説している兄ちゃんがいた。短く刈り上げた頭に黒縁メガネ。白シャツに黒ネクタイ、黒い綿スラックス。たぶん、学校では真面目でおくてで通っていたんだろうなぁと思わせる、その兄ちゃんはラジカセをスピーカー代わりにマイクを握って演説していた。

「われわれ、ブラック・ナチスはぁ、まず世界中の武器を買い取り……」などとやるのだ。ブラック・ナチスなどといっても仲間はいない。彼一人だ。しかもマンガチックな世界政治構想なのだが、どうみてもふざけているようには見えない。偉いなぁと思う反面、「ああはなりたくない」と思ったものだ。

一度だけ、演説会場である駅へと自転車を走らせる彼を見たことがある。カゴにはマイクとラジカセが載っている。嬉々としてすごく楽しそうな顔をしていた。ほんと演説が好きなんだと思った。

そして、今回、2年半経っても彼は演説していた。スーツも、PAもグレードアップして。

でも、「われわれは日本中の原発をすべて買い取る。その方法はぁ――」

中身は大して変わらんかった。


中学教室における心理戦

今日、昼休みに端末から自分の机に戻ると、「回覧」として中学生向け学習雑誌が置いてあった。参考に読めということらしい。

弁当を食べながら見ると、「今どき中学生大アンケート」などと題して読者アンケートが載っていた。

女子中学生の足のサイズの平均が25.5cmとあって、「今どきの女子中学生は、みんな深田恭子か!」とちょっとビックリ。他の数字も見てみると、クラスの平均人数が38人であるのに対して、(クラスを問わない)友人の平均人数が3人で、クラスの中で嫌いな人の数が12人とある。お互いが同じように思っているなら、すんごい心理戦状態じゃないか、と思ったが、はたと考え直して、一体、サンプルは何人なのだと総数を探すとちぃーさく「読者100人の集計」と書いてあった。全国誌ならもうちょっとサンプル集めておくれよ(脱力)。



NHK方式

NHKは特定団体の利益になることはしないということで、固有名詞を避けることが多いのは知っていたけれど……。今日のニュースで、日暮里にある邦楽のライブハウスが開店1周年を迎えたことを報道していた。その店に意義があると報道しているのに、住所や電話番号はおろか、店名さえ出てこなかった。どうやってその店に行ったらいいのか? この報道の意義はどこにあるの?。


官報で行ってみよう

先月、夜勤でしていた仕事は、「官報」のwebデータ化というものだった。

「官報」というものが発行されていることは知っていても実物を見る機会なんか、今までの自分の生活にはなかった。

見てみると何か色々想像をたくましくした。

毎号のように載っている「失踪者公告」

毎日日本のどこかで誰かが、それぞれの事情で失踪しているという話。

それから行き倒れの人の特徴とどこそこで荼毘に付したとか、どこの警察で死体を預かっているとか載っている。60歳代工事人足風などの特徴だとさもありなんと思うけど、ごく普通の身なりで20〜30歳の人間が行き倒れて、身元不明というのは、何があったか想像しますね。

ちなみに身体特徴だけじゃなくて、所持品が事細かに載るので、行き倒れになるときには、知られて恥ずかしいものを処分してから行き倒れた方が良い。

事細かというと、押収品の返却公告というのもあって、住所氏名入りで、その人から押収したものを返却するので、「まだ欲しかったら取りにこい」という内容。「コンドーム3個」とかホント事細か。


役立たずの発明品

この前、新宿の王様のアイディアで蚊の撃退器を買った。

ニッセンのカタログにあった、植物抽出成分の蚊除けリストバンドとどっちにしようか考えたが、王様のアイディアの方のは、メスの蚊が嫌う音波を出すという動作原理ゆえ、電池さえ買い替えれば半永久的に使えるはず、と判断した。ニッセンのは消耗品の上、定価が王様のアイディアの撃退器の倍ぐらいしたから。

今、住んでいるところも窓を開ければ土の地面で、おまけに隣は公園という具合。ベランダで洗濯をしていると、蚊に刺されてしようがない。

で、家に帰って王様のアイディアで買った撃退器の説明書を読む。「家の中に生息するイエカに対しては効果がありますが、シマカにはあまり効果がありません」……。

隣の公園に行って試してみる。私の足に止まった蚊のそばに、そーっと撃退器を近づける。全く構わず彼女は血を吸っていた。

私が徒労となる実験を繰り返していたベンチから右斜め前方8mのところでは、駆け出しのお笑いコンビと思しき若いあんちゃん二人がコントの練習を繰り返していた。

幼児語しか話せない医師と、治療を受けたくて焦っている患者というシチュエーション。

なお、そのオチは以下の通り――。

医師「じゃあ、治しますねぇ。『痛いの痛いの飛んでけぇー』」

患者「んなんで、治るわけないだろっ」


新宿にて

帰り道の新宿駅。

私が階段を上がっていくと、上から二人がもつれるように降りてくる。

若いほうがおやじをボカスカ殴っている。

おやじは両手を広げて嘘臭いほどの作り笑顔を作って無抵抗を示した。

「はーい、私は殴られますよぉ」

ふざけているのか確かにそう言った。

若いあんちゃんは、そんなおやじの意思表示には全く応えず、ボカスカ殴る。このあんちゃんがまた、音楽ミニコミでもやっていそうなひ弱な黒縁メガネのあんちゃんで、目は殺気立っているが、全然迫力はなかった。

私はそのまま電車に乗ってしまったので、後は知りません。



良い大家さん

初めて独り暮しをした部屋は、風呂はないものの6畳・3畳・キッチン1畳・庭付きで3万5千円という当時の相場の半額ぐらいの部屋だった(ただし駅まで徒歩20分)。そんな安い家賃でも、金がなくて半年ぐらい滞納した。一度も督促がなくて、お金を作って菓子折りを持って大家さんのところに行くと、

「あら、まぁ、そんなこと(お菓子のこと)して下さらなくても。住んでいただいているようなものですから」

と大家さんの奥さんは素朴に笑った。

大家さんが亡くなって、息子が遺産を相続したが、相続した遺産を全部売っても相続税が払えないということで(相続税の総額は27億円だと聞いた)、立ち退き料をもらって引っ越した。(このときのことは別に書くつもりでいる)

フリーランスをしてた頃、3人の人間に踏み倒しに逢い、年収の半分ぐらい吹っ飛んで、やはり半年ぐらい滞納したことがあった。大家さんは隣に住んでいるのだが、一度も督促に来なかった。学生時代の安アパートとは違って、合計50万円を突破。

地方に呼ばれたので引っ越したいと告げたら、大家さんは笑顔で「いいですよ」と言ってくれた。で、滞納分払わずに引っ越し。

東京に帰ってきて挨拶しに行ったら、同じように上品な笑顔をたたえていた。

踏み倒しにはよく逢うが、私は大家さんには恵まれているかもしれない。


ジャズ肉屋

仕事先は最寄り駅が4つほどあるが、どの駅からも15分ほど歩く。つまり全然便利でない所にある。

会社の前を通る道はバス通りになっているが、商店はまばらだ。昭和40年代にピークを迎え、その後、ただひたすら衰退してきたのだろうと容易に想像がつく街並み。道路拡張のために道路脇の土地を区が買い上げているので、商店が櫛の歯が欠け落ちたような感がさらにいやます。

たとえば、通りにはコンビニは3軒あるものの喫茶店は一軒もない。中華料理店が一軒あるが、店先にあるディスプレイは見るとかえって食欲がなくなるというか、そもそも、それが一体何の料理だか解らないほど埃が積もり変色している。一度だけ中に入ったが、いつの時代のか判らない芸能人の色紙が何枚も貼ってあった。置いてある雑誌は揃いも揃って数ヵ月以上前のものばかり。

そんな一角にその肉屋はある。

清楚だが、やはり垢抜けない肉屋である。

通りに面してガラスのディスプレイがあって、中に肉が何の工夫もなく並び、ベタベタ手書きのPOPが貼ってある。

菜食なので肉屋には用はないのだが、この肉屋に気が惹かれた。

なぜか、いつもムーディーなジャズを流しているのだ。既に終わっている町の肉屋にムーディーなジャズがたらたらと流れる。

中では、夫婦であろう真面目そうな壮年の男女が黙々と肉を切っている。

POPに混じって救世軍の催し物のチラシが店先にペタペタ貼ってあった。


へなちょこ商店街の小さな狂乱

仕事先で最寄り駅と公称している駅から仕事先への道は、なんというか、歩くだけで運が悪くなりそうな感じがするので、いつも一つ前の駅で降りて歩いている。遅れそうになるときだけ、その駅で降りる。昨日は遅れそうだったので、その最寄り駅で降りて、しょぼい商店街を歩いていった。

すると、模造紙に油性ペンで書きなぐっただけのポスターが目に入った。まるで小学校の文化祭の発表のよう。

「地獄の六人衆 天国バーゲン」と書いてある。

お持ち帰り寿司屋、海苔屋、お持ち帰り中華料理屋の並び3軒だけのバーゲンらしい。

期間は書いてあるが、何が目玉かは全然書いてない。全部、模造紙に油性ペンの手書き。

ただでさえ、しょぼい商店街なのに、これぐらい買う気を起こさせないバーゲンというのも珍しいもんだと思ったよ。
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