モンド・マンガの王道―『地上最強の男 竜』

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 一時期、「モンド」なる単語がよく取り沙汰された。もともとは「世界」という意味のイタリア語だが、グアルティエロ・ヤコペッティの映画『世界残酷物語』(MONDO CANE)のせいで「いかがわしい」「奇妙な」という意味合いで使われるようになった。モンド・ミュージックについてのある雑誌の対談の中で、モンド・ショップとしては老舗のマニュアル・オブ・エラーズの創立スタッフである岸野雄一氏が、モンドの必須条件として挙げたのが以下の三つ。

(1)過剰であること、

(2)アンバランスであること、

(3)一生懸命であること。

 その論でいくならば、風忍作の『地上最強の男 竜』は、その要件をすべて満たしたモンド・マンガということになろう。不思議で珍妙なマンガといっても、『ガロ』に掲載されたのであれば、「さもありなん」で済んでしまうが、『地上最強の男 竜』が掲載されたのは『週刊少年マガジン』である。よくもまぁ、こんな無茶な作品を載せたものだ。
 どれくらい無茶かというと――。主人公・雷門竜は羅城門空手という空手の使い手だが、あまりにも強くて、そのパワーを封印すべく師匠から鉄仮面をかぶせられる。封印する直接のきっかけとなった空手の大会では、試合後に相手にハエが止まった瞬間に、竜の打撃で既に破壊されていた相手の体が破裂してしまうというシーンが登場する。人間の体が内側から炸裂するマンガといえば、『北斗の拳』が有名だが、それより遥か以前にこの『竜』によって行われており、多分そのテの元祖だろう。
 さて、ストーリーは日本中の仏像の中にパーツごとに封印されていたキリスト(後で偽キリストと判明)が復活し、竜の対決になるのだが、キリストは竜を倒すために地上最強の男を二人蘇らせる。それが宮本武蔵とブルース・リーだという選択のセンスもさることながら、覚醒しつつある竜は、二人とも蹴りの一撃で倒し、(純粋な打撃だけで)分子にまで分解してしまう。
 自分に鉄仮面をかぶせた師匠(なぜか道教という名前)も実は偽キリストの手下で、これも分解。ついに偽キリストとの直接対決になる。
「おれは地上最強の男だ!」という叫びとともに地面に打ち据えられた竜の正拳突きは、なんと地球を真っ二つにし、偽キリストも倒される。実は、竜はこのまま争いが続くと人類が滅んでしまうと察知した未来の子供たちの想念によって、偽キリストを倒すために誕生させられたのだという。戦いの終結後、空からは天使と神々しい階段が降りてきて、新時代の幕開けを予感させつつ話は終了する。
 格闘技マンガというよりは、一編の宗教叙事詩といった読後感が残る。暴力と宗教性というモチーフは短編集の『バイオレンス&ピース』でも同じように感じられたし、過剰かつアンバランスかつ一生懸命というのは、その後もあまり変わらないようで、『Gの警告』という作品では、「骨法、熟瓜(ほぞ)打の秘法」を使いゴジラを素手で倒すという無茶をやってくれている。

※この原稿は昔、二見文庫のために書いた原稿を改稿しました。


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